新参者／東野圭吾

下町の人情をテーマにした、味わい深い連作ミステリ。驚きは控えめであるが、東野圭吾の新たなステージを確実に予感させる良作。心に染みるエピソードの連続で、とても気分よく一気に読める。主役に迎えたのは加賀刑事で、彼はひとつの殺人事件で浮かび上がる、数々の、小さな、取るに足らない謎を追いかけ、それぞれが事件と無関係であることを確認しながら真実に近づいてゆく。本当の捜査というのは、こういう謎解きの積み重ねであろうと、なんとなく思っていたことを、非常にうまく小説にしていることに加え、それぞれが人の情あってこその謎であり、１章終わるたびに爽やかな気分にさせられる。しかしそれだけで終わらず、終盤には親子のせつなさと愚かさを交え、一級品の作品に仕上げている。前述のとおり、驚きはあまり味わえないが、秋の読書に欠かせない情感満点のミステリ。